タイトル『旅』












  小さなことで立ち止まり

                雨の滴る世界を思わせる

                               望みだけの旅










 旅







デボン社の出口に風のように走るダイゴに手を握られているはダイゴのペースに追いつこうと走る度つまずきそうになる。
このままこけたらダイゴに引きずられたまま出口に行くのだろうか、などと雑念を頭に回しているとグイッと手をさらに引かれた。
そしてそのままお姫様だっこ。
は引きつった顔をしながら顔を真っ赤にさせて抗議するが、にっこり笑われるだけでまったく耳を貸してもらえなかった。
無駄なことを考えていて、少しペースを落としていたのかもしれない。
だからといってこれは考え物だと思うが。








デボン社の従業員がすごい顔で凝視されるのがとても恐ろしい。
は『生きていて一番恥ずかしい思いをした』とか『この恥しらずが』などといってダイゴを貶すことで、恥ずかしさを押し殺している。
とてつもなく広いデボン社がさらに広く感じた。














「・・まったく・・どうしてくれるのよ」

「どうしてくれるって何が?」

ダイゴはの反応を面白がっているように尋ねてくる。
がもういいと言うまで何回も聞いてきたのだった。

とダイゴはデボン社の前である人間を待っていた。
ダイゴが言うには、その人間がいた方が心強いから前もって連絡していたらしい。
デボン社で走ったのはそろそろ待ち合わせの時間になるからと言っていた。


「ダイゴ、なんかハードスケジュールね。時間に追われすぎよ。」

「ははは。癖なのかもしれないな」


これから世界を破壊している元凶かもしれない集団と接触するというのになんとも平和な会話だった。
それは余裕ではなく、ダイゴがの緊張をほぐそうとでもしているのだろう。
いつも小さなところに気がつく凄い人間だと関心する。



「ダイゴー!」


ダイゴを呼ぶ声が聞こえた方を見ると、空から大きなペリッパーと人影が見えた。
平均よりかなり大きいペリッパーはとダイゴの目の前に下りてきた。その上に乗っていた人間が降りてくるとダイゴが苦笑しながら声をかけた。


「ミクリ、あいからわず君の回りには花が咲いているね」


「それは褒めているのですか?ダイゴ」


「ご想像にお任せするよ」


ダイゴはにっこりとミクリに笑顔を返しながらに目線を落とした。
ミクリといえば、少しだけ怒っているような顔をしながら笑っていた。
しかし彼らはとても仲のいい親友というだということがひと目で分かった。
お互い相手のことを信じあっているような雰囲気が、あの少しの会話だけで感じ取れるほどだった。


、この人がミクリ」


すると『』という言葉を聞くとミクリは血相を変えてに飛び掛るように眺めてきた。



「え!君があのちゃんかい!?」


「え・・。あのってなんですか?」



ミクリのいきなりの行動に腰を抜かして横に立っているダイゴに援護を要求した。
するとダイゴは苦笑しながらは覚えてないんだね、とつぶやいた。



「ミクリ、そうだよ。」


「すごいですねー。少々野性的な子だったのに、こんなお嬢さんになって。
 それにこんな大仕事の仲間にあのダイゴが誘うとは」




感心するミクリをよそに、はデジャビュした言葉とミクリに困っていた。
何故自分が今日始めて知った人間なのに、向こうは自分を知っているのかということだった。
『覚えていない』といったダイゴは何か知っているのかも知れないと尋ねみようと思うが、はふっと本題を思いだした。


「ダイゴ、ミクリさん、早くムロタウンに行きましょう?」

「そうだね、ちゃん。あとミクリでいいですよ。初対面でもないですしね」


は初対面ではないと言う言葉に引っかかったが、あとでダイゴに聞こうと腰のベルトに手を当ててボーマンダを出してふわっと乗った。
それと同時にダイゴもボールから出したエアームドに乗って、ミクリを先頭にダイゴ、そしてと空へ飛び立った。






空に飛び立って暫くたつとミクリがダイゴのエアームドにペリッパーを寄せた。
それに気づいたダイゴも少しミクリに寄る。その様子を見ているは不思議そうな顔でその様子を眺めた。



「ダイゴ、ちゃんはこの仕事で戦える力を持っているのですか?
 あんな華奢な娘ですよ」



「心配無用だよ。は強い。集団と接触したときにすぐ分かるさ」




「ダイゴのスカウトした人間だから心配する必要は無いのだが
 彼女の体力が心配なのですよ」



言葉を詰まらせながらダイゴのエアームドから距離をおいた。
別にミクリはが一緒に戦うことを拒んでいるわけではなかった。ただ『少女』という面を見ると自分たちについていくだけの体力があるかが心配だったらしい。
たしかに一般的に成人男性のダイゴとミクリに互角についていく体力のある娘など考えられない。
それにくわえ多人数の集団に立ち向かって行くとなれば話は別だろう。
しかし当のダイゴは涼しい顔をしながらミクリに笑いかけた。
どこからそんな笑顔がでてくるのだ、とつぶやきながらスピードを速めた。
話題のネタだった自身はその様子を眺めながら、二人の背中を追う。


「何を話していたのかは聞かないほうがいいよね」



自分の体を預けているボーマンダに軽く笑いながら話しかけると、何を言いたいのか軽く鳴いた。



小さな小島ムロタウンの浜辺に三匹の影が下りていく。
標的の集団に見つからないよう、目立たないところで降りなければならないためムロタウンより少し離れた石の洞窟付近に着陸した。
ここから見る限りでは怪しい集団の影はなかった。
しかし町に入り込んでいる可能性は低い。
ダイゴは回りをぐるりと見渡して静かに口を開いた。


「集団はここにいるとしたら石の洞窟だろう。
 洞窟の道は僕が詳しいからついて来て」


たったその言葉だけ。その言葉だけではダイゴの説得力に感心させられた。
おそらくミクリもそうだろう。
とミクリは黙って彼のあとをついていく。流石『石マニア』という異名をつけられるだけあって、洞窟の道は完璧に把握しているらしい。何一つ躓くことなく順調に奥へと進む。
しかしにはさっきからひとつ気になることがあった。


「ダイゴ、ミクリ。」

「ああ、分かってるよ。」

「恐らく例の集団の影響でしょう。」


この洞窟には主にココドラが住んでいる場所で、温厚な性格をしている彼らは普段人目のつかないところに隠れている。
しかし今はたちの目の前で大量のココドラがせわしく歩き回っていた。
彼らのこの不可解な行動を意味するのは、ここで何かあっているしか考えられない。
その様子を見てたちの足並みが先ほどより早くなった。
全員言葉には出さないが、洞窟の危機を感じ取ったのだろう。
奥に進めば進むほど暗くなるはずの洞窟が何故かその逆に奥に行けば行くほど明るくなっている。
それだけではない。奥から異様な鈍い音と、何か硬いものをたたくような音がしてくる。
そして先ほどまで道いっぱいにいたココドラたちがそっくり消えてしまった。


それはこの奥にたちが標的としている集団がいるという意味でもある。


緊迫した空気の中、ダイゴは後ろに続いて歩いているとミクリに「止まれ」と合図を出した。
とミクリはその合図を見た瞬時に足を止める。
すると奥からかなりの人数なのだろう。色んな種類の人間の声が響いて聞こえてきた。
ダイゴはそこ声を聞くと後ろに振り返り、とミクリを真剣な面持ちで見た。


「かなりの人数がいる。
長期戦になるかもしれないけどできるだけ潰す」


「分かった」


「ええ」


三人ともキリッとした真剣な面で腰のモンスターボールを手にかけた。
どんな強敵が待っているか分からない緊張からか、の腕は少し震えていた。
今までもこの雰囲気を味わってきたのにね、と心の中で舌打ちし一回深呼吸をした。
ダイゴもミクリも顔には出さないが、きっと緊張しているのだろう。
いくら戦いなれしているとはいえ、人間である以上緊張と恐怖心からは逃れなれないのだ。


「出るよ」


ダイゴがそういった瞬間、三人が一気に奥にいる集団に飛び掛るように走った。
集団もその音に気づいたのだろう。音が聞こえる方にモンスターボールを向けてそれぞれのポケモンをだした。
相手の集団の服装はみんな同じもので赤い服に山のような形のシンボルが大きくついている。
グラエナ、ゴルバット、ドンメル、マグマッグなど集団が出すポケモンだとツワブキ社長にもらった情報の中に書いてあったとおりだった。


「行け、メタグロス」

「行きますよ、ミロカロス」

「ピクシー、お願い」


走りながらポケモンを出す。たちが出したポケモンたちはかなりのレベルなのだろう。
相手のポケモンが見た瞬間ひるんで一歩下がっている。


「ええい、このバカ度もが!!ピクシーにかみつけ!」

「お前はあっちだ!!」


例の集団たちはそんな様子のポケモンに鞭を振るいながらポケモンに命令する。
それでもポケモンが命令を渋々聞いているところから、彼らはザコなのだろう。


「ピクシー、守りながら後ろに回りこんでおんがえし」


は立ち止まりすばやく的確な指示を下す。
指示されたピクシーは言われた通りとはいえ、そこまですばやいポケモンでないピクシーがとても早いスピードで後ろに回りこみ次々となぎ倒していく。
その攻撃力は並外れたものだった。


「メタグロス、コメットパンチ」

「ミロカロス、メタグロスの後ろから冷凍ビーム」


メタグロスのコメットパンチが敵をなぎ払い戦闘不能にさせ、それを見てひるんだ隙を突いて素早くミロカロスが冷凍ビームで凍らせ先頭不能にしていく。
もしひるんでいなくとも、相手が行動できないすばやさと、打ち合わせもしていないのにやって見せるお互いの信頼の厚さがコンボ技の成功を作っていく。
この二人だからこそできる戦い方だ。
自分たちのポケモンが桁外れに強いのと、相手がザコなのが重なりかすり傷一つつかずに倒していき、ここにいるだけの集団は倒していった。


「この野郎が!」

ポケモンを戦闘不能にさせられた集団の一人の男ががかなり切れているのだろう。
大の大人のプライドも忘れ、少女であるに殴りに飛び掛ってきた。周りにいる仲間は嬉しそうに笑っている。


「ミロカ・・」


ミクリがそう指示しようとすると、ダイゴがミクリを止めにっこりと笑った。
彼の行動に動揺しながら、ミロカロスに早く指示をしようとすると「見ててごらん」とダイゴに言われ不可解に思いながらの方を見た。


「この餓鬼が!」


「・・・。」


すると男はに拳を向けて飛び掛ってきた。その瞬間ミクリは反射的に眼を閉じた。



ドスッ



洞窟に鈍い音が響き渡った。
男の仲間がその光景を見た瞬間、彼らから笑顔がすーと引いた。



バサッ



人間が地面に倒れた音が響く。
ミクリは恐る恐る眼を開けると、そこにはミクリが想像もしなかった光景が広がっていた。
眼をいっぱいに開けて驚いているミクリにダイゴは爽やかに笑った。


「これで僕がをスカウトした理由が分かったよね」


そして殴られて地面に倒れた筈のがピンピンしてピクシーと一緒に近寄ってきた。
どこもケガをしていない様子でいつもの少し冷めた顔だった。


「ダイゴ、それじゃあ私がただの格闘娘みたいよ」


「そうかな」


そう、が倒れた筈の場所にはに襲い掛かってきた男がぐったりと倒れていた。
あのときは飛び掛ってきた男に伸長差を使って、少し腰を落として先に鳩尾(みぞおち)をついたのだ。
だからといって大の男が倒れこむようなものではない。
実は彼女は小さいころからヒマワキシティの自然に囲まれたところで住んでいたので、高いところにある木の実を落とすときに木を殴っているうちに自然に力がついていたのである。
しかもそれはダイゴとケンカしてたたいたときに初めてダイゴ気づいたことだったりするのだ。


「殺人女!」

「獣!!」


集団のしたっぱは腰を抜かしたまま男を担いで、の悪口を言いながら飛んで逃げて言ってしまった。
したっぱの幼稚なたとえにダイゴは苦笑しながら依然驚き戸惑っているミクリを揺さぶる。
その様子を見ながら「そこまで驚くことかしら」と呟きながらミクリを揺さぶるのを手伝う。


ちゃん!私は君の指示と力を見間違っていたようだ!!」


「!?」


いきなりミクリが飛び掛ってきて今度は逆にが驚き固まる。
それを見て苦笑しながら、奥に続く穴をにらみつけた。


「・・ここまで暴れておけば向こうも気づいているわね」



フッと真面目に今の目標に全員にらみつける。
この先にこの集団のボスがいるのだろうと考えると、の力を見せ付けられた後といえ身が引き締まる。



「行きましょう」



ミクリの言葉に頷き、奥へとつながる穴へと歩いていった。
















☆☆☆☆★☆

反省会。
きついです。ミクリの口調が分かりません。
後編部分ドリームじゃないですよね;
・・・・・で頑張りします。
次は甘々で頑張ります。























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