タイトル『癒傷』















癒傷











数少ない小さな穴が空の色を見ることが出来る唯一の場所。
リーダーは何故こんなところに基地を作ったのかが不思議でたまらないが見つからないことを重視するとしかたないとは思う。
穴から外を覗きこむと外は真っ暗で星がキラキラと光っている。

別に俺は残業もないし基地に残る必要は無い。
だが同居人はまだ残業が残っているらしく俺はそれに付き合っている。
暇を潰して待っているというとはあいからず『疲れてるでしょ』などとこちらの気を使ってくるが、いつも無理やり残っている。
それだけ俺はに惚れている証拠でもある。
たまたま姿を見かけた奴を消そうとして、そいつを庇って俺と試合したのが出会いだったとはまったく驚きである。
しかもそのが無理やりではあるが今では立派なマグマ団幹部、つまり同じ位に立っているというのはなんとも言えない気分だ。

それにしても遅い、遅すぎる。
恐らくいまだに基地に残っているバカは俺とくらいだろう。
一応もう俺から逃げようとする行動は見せなくなったから気の散らぬように資料部屋で待っているのだが、いくら残業としても限度がある。

リーダーも働き者ののことがとても気に入っているらしくそこまで無理をさせることはしないはずだ。
もしや本当には逃げたのだろうか。
そういえばいつもより俺を先に帰らせようとしていた気がする。
最近はよく一緒に行動するのもあり、お互い仲間意識を持ち始めたからあまりそういうことは考えたくは無いのだが。
残業疲れで寝ているか、サボっているのか。
そのどちらかだと信じての作業している部屋へなんとなく重い足取りで進む。




「・・バカ・・・」




小さい声が聞こえ不意に足を止める。
その声はの作業している部屋からだ。
そういうことからして恐らくの声だろうが他に誰か残っていたのか?
だとしたら仲良く話しあって残業が進んでいないのかもしれない。
そうなら早く終わらせるように手伝ってやるか。
そのまま止めた足をまた進めのいる幹部職場室のドアに手をかける。




「ごめんね、ごめんね、」





の震えた声が聞こえ手にかけたドアを音を立てないようゆっくり開け中の様子をコッソリ覗った。
するとホカゲの眼に飛び込んできたのは、サボっているでもなく、寝ているでもなく、誰かと話しているでもなかった。
異様な雰囲気の中幹部室に数匹のポケモンが檻にいれたまま置かれている。
恐らくしたっぱが新米トレーナーから調子に乗って奪ってきたポケモンたちだろう。
とても傷ついて今にも死んでしまいそうなやつもいる。
は危険な状態のポケモンを優先に檻から出し優しく撫でながら開いた手で何か光るものを握った。

それがナイフと気づいたときにはもう遅かった。
は自分の腕をナイフで切り酷く傷ついた傷口からダラダラと流れる真っ赤な液をポケモンに塗るようにこすりつける。
いつも明るいが自分の腕を切ることが理解しいえなくてホカゲドアの隙間からただ硬直したまま様子を見つめるしかできない。
がポケモンに血を塗ると何故かポケモンにあった治療しきれないような傷がみるみる内に完治していく。
そして今にも息を引き取りそうだったポケモンが元気にの走り回っているのである。
今自分の目に映っているのが現実なのかさえ分からない。



「ごめんね、私にはこれ以上のことはできないけどせめてもの償いだから・・
 許してなんていわないから早くここから逃げて・・」




ポケモンはをじっと見て何か鳴いている。
俺にはいや人間はポケモンの言っていることなど分かりはしない。
もしかするとまったく罪の無いをうらんでいるのかもしれない。
結局ポケモンと人間は住む世界が違うのかもしれない。




「そう、ご主人様が・・
 ごめんね。本当にごめんね。」




はポケモンをぎゅっと抱きしめながら震えた声で呟いた。
まるでポケモンの言っている言葉を理解しているかのように。いや本当に理解しているのかもしれない。
彼女が『ご主人様が・・』といった時点で考えにくいがそういうことなのだろう。
本当にこれが現実なのかが窺わしい。
自分の血を塗ることでポケモンの命を救って、まるでポケモンのいっていることを理解しているように喋る
少し入りにくい雰囲気だがこのままさらに傷を広げ続けたらの命が持たないだろう。
俺は意を消してわざとらしくドアの音を立てて入る。




「ホカゲ!?」




俺が姿を現すとにべったりくっついていた完治したポケモンがだっと基地から逃げ出した。
恐らく自分を痛めつけたしたっぱにでも見えたのだろう。
かなり泣いたのだろう。赤く充血した眼をまん丸に見開いてじっと俺を見てふっと目線を下に降ろした。




「お前の能力のことはあとだ。
 ポケモンよりもお前のほうが治療しないと死ぬぞ?」




死にたいのかよ。と漏らし、の赤く染まった腕を強引にひっぱり救急箱から取り出した消毒液をかける。
傷口に自分の血がついているのにもかかわらず傷が塞がらないのはポケモンにしか効果を出さないのか、自分には効果が無いのかだろう。
今出来た傷の他にも古傷が大量に残っているのが何よりの証拠だ。
無言のまま慣れた手付きで包帯をする。
ふっと少しの顔を覗うとヘタっと力なく座り込んで俯いていて表情が覗えない。




「あとのポケモンは傷薬でどうにかなる。
 お前は休んでろ」




「・・なん・・で・・手伝って・・く・・れる・・の?」




乱れた呼吸のまま開かれた声はとても儚く今にも崩れてしまいそうな声だった。
いつもの強気なの欠片ひとつなく弱弱しい虫の息のようだ。
なんでと聞かれても好意を持つ女が死にそうなのを黙ってみてられるバカがどこにいるんだ。
と思いつつもそういうことは口に出来ない。




「お前は悪くないからだ」




そう分かりきったことを適当に吐き捨て檻に入れられたポケモンに傷薬を丁寧に塗ってやる。
の力には及ばないがこれで野生で生きていくのには心配ないだろう。
ポケモンたちは俺の様子を覗うので、ぶっきら棒に『出てけ』というと嬉しそうに勝手に基地から消えていたった。
皮肉だな、無理やり主人から離されて野生になるのは。


さて今心配なのは一人。
あの傷からしてかなりのポケモンに血を塗ったのだろう。
それにあの古傷はそこまで昔のものではないのだろう。
たしかごく結構のも妙に残業が長引いていたことがあったからそのとき早々と残業を終わらせてやっていたのだろう。
今度したっぱどもがまたポケモンを捕獲してきたらぶっ殺してやる。
自分は罪の無いのに、あたかも自分が悪いかのように謝りつづける。なんて自己犠牲な考えだろうか。
俺がマグマッグで人を拷問しているときもとても気持ち悪そうだったし。
こいつみたいな平和主義者には悪党なんぞ向いていないなと横目でを見ながらつくづく思う。
あいからわずは一歩も動けそうに無い様子。
だからといってここに座りっぱなしの方が体力を消耗するだろう。




「・・・」





ぐったりして弱弱しいをふっと持ち上げる。俗の言うお姫様だっこ。
いつもなら反論するだが反論するどころか黙って虚ろな眼で俺を見つめている。
クソッこんなは二度と見たくねえ。
心でしたっぱどもを殺しながらオオスバメに自分を掴ませる。
俺はをお姫様だっこをしたままだが見た目細身なだが予想していたよりも軽いことに驚かされる。
いつもなら飛べばすぐの家だというのにイラだっているせいもあるのかいつもより時間がかかっている気がしてたまらない。

オオスバメがの家の前で降ろし器用にボールに戻す。
とりあえずぐったりしているをベットに寝かせ栄養のあるものをとらせることにした。
先に水を飲ませ水分補給をさせる。
本当に操り人形のように動かないがこのまま死んでしまうのではないかと心配で仕方が無い。
心配しながらも手早く御粥を作りの方へ持っていく。
近くにある台に御粥を置き、をきつくないようにベットの上座らせる。
寝たっきりの人間の介護でもしているようだ。




「食べれるか?」




「・・・・・・嬉しいけど、ちょっときついかな・・」





絶対ちょっとでは無い、喋るものきつそうだ。
これでは自力でものを食べることは不可能だろう。
俺は何か方法は・・・と考えているうちにいい案を思いついたが後々に悪い気がして行動に移しにくい。
しかし虚ろな眼でどこを見ているのかもわからないを見ているとそういうことを言ってられないと決心した。




、後々怒るなよ」




の返事を待たずにその案を実行する。
後々が怒ったってが助かるのならば別にどうなろうとかまわない。
ホカゲは御粥の蓮華を手に取り掬い上げ、御粥を自分の口の中に入れる。
自分の口の中でゆっくり冷やしてやる。




「ほら口開けろ」





多分俺がこれから何をするか理解していないのだろう。
だるそうな体をゆっくり動かし口を開いた。
俺はの口に自分の口をあて自分の口の中で冷やした御粥を少しづつの口に流し込む。
正直俺も恥ずかしいがこうしか方法がないので仕方が無い。
はゆっくり飲み込んだ。
飲み込めることが出来たのが幸いである。
普通なら顔を赤くするだろうにそれさえもなくボーとどこを見ているのか分からない。
けどこの調子で物が入るのなら安心しても大丈夫だろう。
そう少し安堵をつきながら繰り返しこの方法でに御粥を移してやる。
これを5、6回したところでが自然と眠っていった。
初めは正直死んだかと思ったが呼吸があったので安心した。




たく、俺はいつこんな世話焼きになったんだ。




そう内心細く笑いながらと同じベットでの寝顔をそっと見守りながら俺も眠りにつこうとする。
しかしやはり横で寝ているが心配でなかなか寝付けないのである。
俺は昔から女の縁はあって一方的に告白されたことは数えられないほどある。
だが鬱陶しいためキツイ言葉をお見舞いして振る、これが俺であった。
しかも今まで好きだとかいう心を持ち合わせていなかった。
こいつに会うまでは。
初めてあったときは敵としてだったというのに一目惚れしてしまい戦闘中もあまり集中できないほどの重症だった。
本気で一生好きなどという感情は生まれないと思っていた。
そう思っていた頃のことを思うと今の自分の積極的な態度には内心驚かされる。

疲れて寝ているの頭を優しく撫でる。
サラサラの艶のある綺麗な髪。
まるでガキの髪のよう。
実際俺はに色々と手を出しているがこいつは俺のことをどう思っているのだろう。
いきなりしつこく追跡されて、無理やり入団させられて、無理やり同居させられて・・・。
だがは最近では嫌な顔ひとつ見せない。
というかこいつは俺が好意を持っていることに気づいているのか?
気づいていない。それが怖くて妙にに手を出してみたりしているが実際どうなのだろうか。
昔俺が何も考えず適当に振ってきた女の気持ちが少しだけ分かってきた気がする。
何故振られたくらいで泣き出すのかまったく分からなかったが今、こんな立場にいる俺には大分わかる気がする。
だからといって同情する気はないがな。



考え老けているうちに俺はいつのまにか眠っていた。













































俺が眼を覚ましたときもまだは眼を覚ましていなかった。



(今日は二人揃って休暇を貰うか)



ポケナビに手を伸ばしエントリーコールからカガリを探し出し連絡する。
何かあるときはいつもカガリに連絡する習慣がついているのである。
カガリは結構しっかりしているし、ホムラと違って朝早く起きているため迷惑にならなくて住むからだ。



「ホカゲだ。
 今日は俺もも体調回復のため休ませてもらう。
 あとしたっぱどもに無駄にポケモンを捕獲させるなと厳しくいってやってくれ。
 ・・ああ、悪いな」



ピッと電源を切りテーブルの上に置く。
いきなり幹部が同じ日に休むとはとても迷惑な話である。
カガリも少々戸惑い気味だった。
しかし『捕獲させるな』というと誰がそう望んでいるのか分かったらしく軽く鼻で笑い『ああ。』と呟いていた。
せっかく貰った休暇だ。のんびりやるとするか。
それに・・・あいつの能力についても聞きだしてみるとしますかね。



昨日の大量出血がかなり響いているのだろう。
暫く起きる様子も無かった。つまり熟睡モード。
だがあたりまえ無理に起こそうとしない。あそこまで出血があると女は男よりも立眩みや貧血を起こしてしまうらしい。
少し物寂しい気もするが自然に起きるのを待った。
それまでの寝顔をぼーと眺めて見たり、マグマッグたちにポロックをあげて見たり、これは仕事だがある装置を作っていたり・・。
感覚的にはかなりの時間が経った気がするが、あまり経っていなくどんどんやることが無くなっていく。







「・・あー・・・」




そうまさに暇だと叫びそうになったそのとき、凄いタイミングのよさでが眼を覚ました。
といってもホカゲの顔にはいつもの無愛想ではなく『暇』というのが出ているが。






「お早よ・・・
 というか私なんでここにいるんだろ」




「記憶無いのかよ」




うん。といいながら真顔でなんで?と聞いてくるにすべてを教えるのは酷だが、あえて言っておくことにした。
恐らく俺が職場に入ったあたりから視点がおかしかったから、もうその時点であまり意識はなかったのだろう。
昨日あったことを隅から隅まで言っていくと段々思い出したらしく顔を赤面にさせながら俺の鳩尾を狙って殴ってきた。
この様子ならもう元気なんだろうが、いきなり鳩尾を狙われてあと少し反応が遅れていたら直撃していたであろう。




「なんだよ、折角助けてやったのによ」




どうやら予想通り俺が口移して御粥を食べさせたのが相当効いたらしい。
顔を真っ赤に染めたまま無言で硬直している。
まあ一応彼氏でもない奴にそんなことをされたらこんな反応をしても仕方ないだろう。
今回はそういうことで許してやることにしておく。




「あとさ、聞きたいんだけど。
 お前どういう能力持ってんだ?本当に人間か?」





「人間だ。
 ・・良く分からないけど小さい頃からポケモンと話せて
 自分以外の人の傷を自分の血で癒せていた」





さっきの赤面はどこへやら。
真面目な顔をしたまま少しさびしそうに俯き加減で続ける。




「自分もよく分からない。
 けど生まれつき持っていたんだよ」




話終わると何を思っているのか、上目遣いでホカゲをじっと見つめた。
どこにも元気な面持ちは無く昨日と同じ儚げな顔。





「別にいいんじゃねえの、ソレ」




「え!?」




ホカゲの予想外なあっさりとした言葉に驚き、反射的に声を漏らしてしまった。
本人は自分から食いついてきた話だというのに少し不機嫌そうな顔でいる。




「お前どうせ俺に引かれるとでも思ったんだろ?
 バカかお前は。」




嗚呼、そういうことかとは安堵の笑みを見せホカゲにギュッと抱きついた。
ホカゲから抱きつかれることはしばしばあるが、自分自らホカゲに抱きついたのは初めてであった。
向こうも予想外の行動に初めは少々戸惑い気味ではあったが無言でギュッと抱きつき返した。








はホカゲに無言で謝り、感謝しながら






ホカゲは彼女の気持ちに触れ、受け入れながら






















また少しお互いが近づきあった。




















☆☆☆★☆

ホカゲ夢大量に増えつつあります。
書きかけのもダイゴ3割、ミクリ1割、ホカゲ5割、その他1割な状態。
友達にメールで画像を送られてはまりました。
その友達に影響受けやすいようです。
けど面白いのでOK.




















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